朝井リョウ『どうしても生きてる』を読んで

 

 

『健やかな論理』

僕の友人に、いつも「死ぬ勇気はないけど、産まれて来なくていいなら生まれてきたくなかった」と言っている人がいる。

この本を読み始めてすぐ、その人のことを思い出した。

 

※ネタバレ注意

主人公は変わった趣味を持っている。ニュースで死亡事件を知ると、その人のTwitterを特定し、最後のツイートをスクショする。そして、事件のネットニュースをスクショする。

そうすることで、当たり前のように生きて、何の変哲もないツイートをしていた人が、何の前触れもなく死ぬという現象がスワイプ1回でつながる。

こうすることで、「健全な論理」から外れた現象が世の中にたくさんある、ということを自覚することができるそうだ。

 

主人公は大企業のホワイトカラーの仕事をしており、価値があるとは思えない仕事を毎日毎日して、つまらないとは思いつつ安定した生活を手放せないでいる。安定した生活を妬む世間の声を聞き、社会からの疎外感を感じている。

 

ある日、気がついたらホームにいた。いつの間にか退勤していたらしく、電車がホームに来るが足が動かない。食べたいものを考えるが、思い浮かばない。次の電車が来るが、足が動かない。明日の仕事のことを考えるが、特別なことは何もない。あれ?なんで生きてるんだっけ。そのとき、「もう、いっか」と、電車が向かってきているホームに向けて歩き出す。

 

「死にたい死にたいもう死ぬ!」という助走があるわけではないそうだ。ある時、パンっと、思い立つ。「健全な論理」は存在しない。

 

その時、恋人から、死亡事件の被害者の最後のツイートと酷似したメッセージが届く。スマホを触る指が止まる。スワイプしてしまったら、事件の被害者のように恋人が死んでしまうかもしれない。その時、猛烈に、その恋人に生きていて欲しいと思った。ホームに向かっていた足は止まり、電車の通過で髪が舞い上がる。

 

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感想

「健全な論理」で説明できるほど、人間は単純じゃないのだろうと思った。Twitterやってた人が突然死ぬ。毎日の帰り道で突然死のうと思う。1つのメッセージで猛烈に生への執着が沸き起こる。

 

いつだって少し死にたいように、いつだって少し生きたいと思っている。自分の中にあったよく分からないモヤモヤを、代弁してくれるような本だった。

 

命は美しい。命は尊い。小学校の道徳や親からはそう教えられたが、生まれてきてしまった以上、みんな生きるしかないから頑張ってるのではないだろうか。頑張って勉強して、頑張って働いて、頑張って趣味を作って、自己啓発本や哲学なんかを勉強してみたりして。「どうしても生きてる」僕たちは、大変だよね。